遠い彼方からの呼び声 -3

Published on 27 September 2022 at 02:50

そういえば先日、パリで野外映画祭があった。

 その中のフランス人のショート・フィルムで「北部のある海岸での話」を描いたものがあり、若い女性が二人でヴァカンスに行く。ややざっくりしたセーターのようなものを着ているが、しかし昼間は海で泳ぐなど、いかにも北部の海岸である。 潮の満ち引きが大きく、引いた時には近くの島に歩いて渡れるような光景は、おそらく仏英海峡だろう。

 夜になり、一人の女の子が寝付かれずに海岸に出て岩場に座って海を見ていると、海からなにか歌が聞こえてくる。 西欧北部では「シレーヌ」などの話が広く一般的だ。多くは女声なのだが、ここで聞こえてきたのは男声のかすかな歌である。

そして、だんだんとその声が近づいてきたのだが、その歌はどこかで聞いたことがある・・・聞いたことがある・・・それは、ブラームス第2番の第2楽章の冒頭のあのチェロのテーマである・・・。

 

  このことは、あの第2楽章の冒頭のメロディーは、実は「ケルト・ガリア時代、あるいはその後の『フランク王国』の記憶を呼び起こす記号」である可能性を示している。フランス人の映画作品で、ごく控えめにだが突然このように示されたことに驚いた。

 

 あの交響曲第2番の第2楽章が、他の楽章に比べて妙に「暗鬱とした表情」を湛えているのは、このようにブラームスはこの楽章で「太古からの呼び声」を描きたかったからではないか?そう考えてこの楽章を聞くと、この楽章には「ケルト・ガリア、フランク」「祖先」が聞こえる。

途中の部分は「戦い」のようなものが描かれているように感じるが、それは「かつてのある一人のガリア人あるいはフランク人の精神」というニュアンスもあり(英雄の生涯)、また「大フランク王国」のニュアンスも重なり、さまざまな絵が浮かんでくる。それほど長くない楽章だが、「壮大なドラマ」のようなものが描かれるのは、こうした意識だったと思われる。

 

この複雑な「光と影が交錯するような暗鬱とした表情」は、ブラームスが

西欧北西部からの「呼び声」をふと感じた、のではないかと私は思う。

 おそらく、ブラームスはアルザスかその周辺のロレーヌなどの山の麓を散策しながら、ふと感じたのだろう。

 

(昔からこの曲に私は「オーストリア」を感じない・・・「オーストリア」のすぐ隣の「イタリア」にいた時も、フラームスからはまったくオーストリアを感じなかったのである。そこに、この「フランス人のショート・フィルム」が「第2番の第2楽章」を示した。その舞台は、仏英海峡である・・・)

(補足だが、メンデルスゾーンの「スコットランド」という曲があった。メンデルスゾーンはユダヤ人系と言われているが、常にイングランドやフランス系の「精緻な絵画や色調」を思わせる作品が多い・・・Vn協奏曲も・・・。)

 

こうして考えてみると、

メンデルスゾーンやブラームスなど「ドイツと言われているもの」に共通するあの「陰影」は、実は「ケルト・ガリア〜フランク人」のエスプリ(精神・霊)と空気なのではないか?

 

パリは、はるか昔のケルト・ガリア人の時代からその中心地である。

 

(忘れてはいけない。「大ブリテン島」もケルト・ガリア人である・・・)